11 バラの日々
五月はバラの日々です。五月に入ると、バラは一斉に咲き始めます。深紅のカサブランカ、たかい香りのする純白のホワイト・クリスマス、名前を忘れましたがやはり高く香る黄色のバラ、薄紫のバラ、赤と白が交じり合っているバラ、いくつかのミニバラ、パティオ・ローズと呼ばれる中輪のバラなど。そしてなによりも南に面した道の垣根に這っているつるバラ。新雪と言う白い四季咲きの大輪のバラです。それに垣根の右端と左端に深紅の花で剣弁のつよいアンクル・ウォルター。去年の冬に造ったアーチにも新雪とアンクル・ウォルターを絡ませています。
田所さんも今では人がなぜバラを愛するのか少しわかるようになりました。バラはいつも毅然としているのです。風に吹かれてそよぐのでもなく、陽光に葉裏をきらめかせるのでもなく、花びらを一枚一枚自らの意志にそって開くのです。青緑の堅い葉の前にくっきりと強く咲くのです。厚い花びらの一枚一枚が強い自己主張をしています。
こんなに自らを美しく主張する花はないのではないでしょうか。五月はバラの日々だと、人は確かに納得します。五月の午後の、ときにはもう盛夏を思わせる強い光を受けながら、花自身は、さらば、短き夏の光よと、すでにその終焉を予告します。人生の頂点は決して永続せず、午後の光とともに移ろうかのように。やがて夕暮れが訪れ、白いバラが優艶に輝き始めます。ふと立ち止まると、そこに高いかおりが漂っています。
弘平さんは、夕食の後、妙さんと一緒に庭に出て、それらの、幽暗の中の白い花々をめでるのです。濃い紺色の空に月が出ていて、一日の疲れが消えていくような気がします。
Papa Wonderful. 1999. RI Ko.
Sekinan Zoho. Story. Contents
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