To Winter by RI Ko. 2015. Sekinan Library
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―版画が動いて見えたんだっけ?
―そう、あのときはかなりおどろいた。前にも言ったけど、その版画はむかし、一緒に働いていたKが送ってきてくれたもので、ずっ と封筒の中に入れたままにしてあった。花火の版画で、こまかな技術はぼくにはよくわからないけど、たぶん切り絵のようにして版を 作って、そこに油っぽい絵の具をつけて、幾回か刷り重ねて作ったのかな、その幾重にも重ねられた紺一色のグラデーションで花火 の 打ち上げが描かれていて、それを今のところに越してきてから、台所の横の壁の上のほうに、額に入れてピンで留めておいた。日曜日 の夕方近くだった。ソファに腰掛けてなにげなくその版画の方を見上げると、すわっているから見上げる感じになるんだけど、そうす ると電気をまだつけてなかったからすこしうす暗いその台所の壁面の版画の中で、花火がつぎつぎに打ち上げられていく。花火がゆっ くりと暗い空に上っていってしずかに大きく開く。続いてその下方で淡く白い花火が開き、そのさらに下方で菊のような花火が開く。 さらに後方を別の花火が上っていき、上空で細かく飛び散るように開花する。打ち上げは見ている間中いつまでも続き、絶えることは ない。幻想的というのか、呆然とした、そのときは。
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