Story
To Winter by RI Kor, 2015
Youth days of a student enthralled by language
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冬へ
里行
1
背の高い建物群が青緑色に見える。都市線の高架の下を南北に広い道路が走り、そこをゆっくりと路面電車が進んで行く。駅を降り
て歩道をすこし南に行くと、Aの住まいに着く。一階はブリキ屋で外付けの階段を上った二階に住んでいる。物置のように使われてい
たところを住まいにかえただけの殺風景な部屋だが、窓が道路に面した東と、駅の方の北に取ってあって明るい。
彼が初めてこの駅で降りたとき、曇り空の下にくすんだ高い建物が背景となった風景になんとなく惹かれて、歩き始めてすぐに目に
ついた貸家の張り紙のままに、「トタン・ブリキ製造」と看板があるガラス戸を開けて、その場で部屋を借りることにした。
駅からここまで来る途中の路面電車の中継基地とでも言うのか、そこから道路に向かって電車が出て行く光景が今も初めて見たとき
のように好きだ。線路は赤く錆びていて、車輪の当たるところだけが、銀色に光っている。電車はいつも道路に向かってカーブしてい
くときにギシギシときしんだ音を立てた。
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