まちぶせ
里行
その人1のことを思うと、なんともいえない歩き方をしていたその後ろ姿がうかんでくる。
歩くような立ち止まるような、右を見るような左を見るような、ちょっと見上げるような
ちょっと下を見るような、片方かそれとも両方か、その足先をぽんと前に放り投げる
ようにして、彼は帰ってゆく。小脇に薄っぺらな使い古しの何かのあまりの封筒に
これもなにかの使い古したその裏側にごちゃごちゃと書き記したメモ2を入れて
青い小さな本3をもって白墨によごれた指をそのままに彼は帰ってゆく。
橋4のところで彼はふと立ち止まる。僕にはそう思える。くもった空を見上げて、ふうんと
いうふうに勝手に納得して、ああそうかというふうに彼は帰ってゆく。
その後ろ姿が忘れられない。
いつだったか一度、友だちと二人で、彼が来るのをみはからって、橋のところで待っていた。
彼はちらりともぼくらを見ないで、いってしまう、ぼくらはじゃれた猫のように
その後ろをおいかけていった、そんな日5があった。きっと暖かな春の日だったか。
1985年1月13日午後8時45分 農高図書館
1 西順蔵先生
2 中国古代思想史講義用
3 新華字典
4 講義棟と管理棟を結ぶ
5 1980年代初頭
Tokyo February 28, 2007
Sekinan Research Field of Language
www.sekinan.org
No comments:
Post a Comment