Monday, 23 March 2015

Manuscript of Quantum Theory for Language

Manuscript of Quantum Theory for Language

以下に示す「言語の量子理論」は、英文で書かれたQuantum Theory for Language の草稿となるもので、2003年3月に長野県白馬の白馬アルプスホテルで書かれたものである。発表するのは今回が初めてである。いままで発表しなかったのは、この草稿がまったく資料のないホテルの部屋できわめて短時間のうちに書かれたものであり、そのためその内容が非常に直感的で、通常の論考とは異なる、私にとってはかなり先鋭的なものであったためである。しかも論考は途中で終わり未完のままである。2003年12月に或るシンポジウムで発表するためにこの草稿をもとに書き上げたQuantum Theory for Languageでは、論考の趣旨はほぼ一貫しながらもその表現をより穏やかなものにした記憶がいまもはっきりと残っている。しかし現在この草稿を読み返してみると、私が2003年当時気にした直感性や先鋭さは、やはり私の言語論の本質に深く根ざしたものであり、ほぼ十年におよぶ言語に関する数学的な記述を経て振り返ると、私が今なお書き残しているもっとも重要ないくつかの主題は、ほぼこの草稿に記されたものであることを私はあらためて確認するに至っている。言語の量子化、量子の出現と消滅、量子の接合と階層、量子集合体、量子群の進行と階層、陽性量子と陰性量子、量子の意味とエネルギー。いずれも私にとって、依然として未知であり魅惑的であり続ける。今後私はふたたびこの草稿の位置にもどり、あらためてみずからの思考を紡いてゆくことになるであろう。老年の今となっては、本質は形態に先行し、もっとも表現したいものを、私にとってそれにもっともふさわしい方法で記述してゆくこととなるであろう。いくばくかの時間がなお残されているのであればだが。二十歳のころ恩師が教えてくれた句は今もそのまま生きている。いざゆかん雪見にころぶところまで。
2015年3月23日、東京にて記す。

Reference added, 12 April 2015:
The First Paper on Inherent Time in Word
Reference added, 20 April 2015
Quantization of Language / Floer Homology Language




言語の量子理論


0 はじめに 
 中国における主要な言語である漢語には2000年を超える記載言語すなわち文字言語の歴史がある。
 中国古典を代表する『論語』は、現代に残された文字資料であるが、同時に同書編纂当時の口頭言語を強く含んでいるとされる。(吉川幸次郎 1967年)
 ここでは、おもに『論語』の文例によりながら、記載言語(文言)と口頭言語(白話)の両面にかかわる、言語の分析を試みる。

1 言語の量子化
 言語類型論で孤立語に分類される漢語、いわゆる中国語は、原理的には一つの音節が一つの意味と一つの文字すなわち漢字を持つ。
 音節が連続して新しい意味を形成することはあるが、それぞれの音節は常に本来の独立した意味と文字を改変することなく所持することによって、漢語の内在する言語規則を基本的にはほとんど改変することなく、長い歴史時代を通して保持してきた。
 漢語の文法的機能が、発音や文字の外形的変化を一切行わなず、一語一語の配列すなわち語順によって、形成されるとするが、その語順すなわち統語法の内在原理は、いまだ十分な解明をみたとはいえない。
 ここでは文言と白話をともに含むとされる『論語』を漢語の言語モデルついて採用し、主に文字論的な接近によって、漢語に内在する言語法則ひいては一般的な言語に内在する言語構造を分析しようとするものである。
 漢語の統語法については、伝統的に実辞と虚辞の2分類によってなされてきた。実辞は実質的な意味を所有するのに対し、虚辞は実辞が所有する意味を補完するために用いられるとされる。
 たとえば、『論語』巻頭の一節、「学而時習之、不亦説乎」(文例1)にあっては、一般的には「学」「時」「習」「之」「説」が実辞であり、「而」「不」「乎」が虚辞である。
 ここで、一つの意味を所有する漢字一字を、一意味単位を有する言語量子とし、言語の最小単位と仮定する。
 伝統的に実辞とされてきたものは、言語量子として通常、一単位の陽性量子を有するとする。虚辞とされてきたものは、通常、一単位の陰性量子を有するとする。一陽性量子をℓ+、一陰性量子をℓ-と表記することとする。
 一陽性量子は、運動推進エネルギーを有し、量子を前方に移動させようとする力を持つ。一陰性量子は、運動吸収エネルギーを有し、量子の運動を吸収し停止あるいは変更させる力を持つ。一陽性量子は、一陰性量子に接合することによって、自らの運動を停止あるいは変更させる。
 文例1「学而時習之、不亦説乎」によれば、「学」は「而」によって、その運動を変更され、「説」は「不」「亦」および「乎」によって、その運動を変更され最終的に停止されている。
 陽性量子の運動エネルギーは、通常、常時進行性であり、陰性量子に接合するまで、その運動を停止しない。
 陰性量子の運動吸収エネルギーは、通常、「一時停止」「方向変更」「停止」等の機能を有する。
 文例1によれば、「而」は「一時停止」、「不」「亦」は「方向変更」であり、「乎」は「停止」として機能している。
 まとめるならば、量子は意味とエネルギーを有する言語の最小単位である。
 
2 量子の出現と消滅
 量子は、新しい意味が言語世界へと出現要請されることによって、出現する。要請は言語世界への新しい意味の付加が必要とされたときになされるものである。言語における発話と文字との関係は、発話の先行が一般的であるが、漢語のように、一つの音節が一つの意味を有する言語においては、後出する文字は、発話行為とともに想像上の形態として要請されていたと仮定することも可能であろう。すなわち一つの意味が一つの具体的な識別形態を要請しているのである。この行為は人間の営為として自然なものである。
 言語量子は、言語世界への新しい意味を付加するために、出現する。量子が有するエネルギーは、その新しい意味を言語世界に付加するためのものであり、新しい意味と不可分に結合したものである。
 量子は、その意味が言語世界に不要となったときに消滅する。文例1において「不」は本来は「花のめしべの子房」を意味したが、その実辞としての意味は早くに消滅に、「打ち消し」を意味する虚辞としたのみ、言語世界に機能してきた。
 この「不」で示されたように、実辞と虚辞は漢語において、明瞭に区別されたものではなく、相互の乗り入れや変換が不断に行われてきた。すなわち、上述したように、量子は、当初、言語世界への新しい意味付与のために出現したものである。
  当初は陽性量子であった実辞は、言語世界への意味付与の役割を終えるとともに、その運動エネルギーも消滅する。しかし他の量子の運動エネルギーによって、言語世界が構成され改変された痕跡は、他の量子から運動あるいは圧迫を受け続け、運動を受容する量子として、負のエネルギーを付与されて、言語世界に存続することがあると仮定する。こうして陰性量子が出現する。
  出現した陰性量子は負のエネルギーを有するため、陽性量子のエネルギーを吸収し、その運動を停止または変更させることとなる。

3 量子の接合と階層
 二つ以上の量子は、互いに接合することによって、新しい構造体を形成する。
 文例1「学而時習之、不亦説乎」によれば、量子の接合は以下のようになる。
 <ℓ+ ℓ- ℓ+ ℓ+ ℓ+ ℓ- ℓ- ℓ+ ℓ->
 ここで、陽性量子は、次の量子まで意味を移動させる。陰性量子は、前の量子の運動エネルギーを吸収し、停止または変更させる。
 「而」と「乎」が陰性量子として、構造体すなわち文を「停止」させる機能を働かせていることは明瞭であるが、「不」と「亦」の二つの陰性量子は、量子の運動の「変更」として機能していると仮定する。
 伝統的な文法によれば、「不」と「亦」は「説」の意味を補完するとされるが、この量子理論では、後ろの量子は前の量子のエネルギーを受け止めるため、従来の説明では処理できない。
 ここで「変更」とは、前の量子の運動の方向を変えさせることである。こうして一つの陽性量子は、その運動が別の軌道に移されることとなる。すなわち、陽性量子はある一つの軌道上で運動をおこなうが、ある種の「変更」陰性量子はその軌道を別の軌道に移し、新しい意味構造体を創出する。
 その軌道は、モデル的には、数階建ての高層建築が想定される。「学んで時に之を習う」という階から、他の異なった階へと移動させる。
  ここで「不」は「学んで時に之を習う」ことを否定する階へ移し、「亦」はこの「学んで時に之を習う」ことを新しい可能性の階へと移動させる。「乎」はこの状況に疑問を投げかける階へと移動させる。
  この一連の状況をモデル化して図示する。


 ↓而習之
     ↓不
       ↓亦説
          ↓乎

『論語』の有名な一節、「有朋自遠方来」(文例は以下のように図示される。
 有朋
   ↓自遠方来
 
4 量子と量子集合体の符号化
 量子は初め陽性として出現し、その消滅によって陰性を生じる。陰性量子は陽性量子の群にあっては、無意味であるために非圧迫量子であり、陽性量子としてかつて獲得した意味空間をいわば不断に圧縮され続ける状態にある。こうしてポンプで押し出されるようなエネルギーが陰性量子に蓄えられ、陽性量子の軌道を変更して異なる階層へ移動させることとなると仮定する。
 したがって、この量子理論によれば、漢語のすべての漢字、すなわち意味とエネルギーを有する量子は、次のように符号化することができる。
  量子 /  /
  意味 ℓ
  陽性エネルギー  →
 陰性エネルギー  ↓

 文例1の「学而時習之、不亦説乎」の符号化は以下のようになる。

/ℓ→/ 
  /ℓ↓/ /ℓ→/ /ℓ→/ /ℓ→/
           /ℓ↓/
                /ℓ↓/ /ℓ→/
                /ℓ↓/
ここで/ℓ→/を数字の1で、/ℓ↓/を数字の0で表すと、「学而時習之、不亦説乎」は101110010と数字化できる。
したがって文例1の「学而時習之、不亦説乎」は[進行5,階層4]の言語量子の構造体であるということができる。これを[move5,class4]と表記する。
文例2の「有朋自遠方来」は

有朋
  ↓自遠方来

であるから、

/ℓ→/ /ℓ→/ 
    /ℓ↓/ /ℓ→/ /ℓ→/ /ℓ→/

と符号化され、さらに、

110111

と数字化される。その構造は[move5,class1]である。

もう一例『論語』から文例をとる。

「三年無改於父之道、可謂孝矣」(文例3)

/ℓ→/ /ℓ→/ /ℓ→/ /ℓ→/
           /ℓ↓/  /ℓ→/
               /ℓ↓/  /ℓ→/
/ℓ↓/  / ℓ→/  /ℓ→/
                 /ℓ↓/

111101010110   [move8,class5]

5 量子群における進行と階層
 量子群である文における、一階層における進行度数を見る。
文例1では、4分の5で0.8度数。文例2では、1分の5で5度数。文例3では5分の8で1.6度数となる。
ここで、一階層進行度数がどのような指標となるかを考察する。
進行度数1とは、文言にあっては、実辞1に対して虚辞1の割合であり、1階層に1意味が存在する最も明瞭な文と考えることができる。
したがって進行度数が1以上となると、1階層に2つ以上の意味が存在することなり、一つの意味を細かく規定してより微細な意味を提示することとなる。
これとは逆に進行度数が1未満となると、1階層において、一つの意味を提示することがなく、2階層以上によって初めて意味の完結をみることとなり、一つの意味の周囲に補足的な意味内容が付加されることによってより構成的な意味が成立することとなる。
 文例1は0.8度数であり、補足的意味が付加された文である。文例2は5度数であり、微細な意味が規定された文である。文例3は1.6度数であり、ほぼ標準的かやや微細な規定が加わった文である。

6 量子理論の基本原理
 量子理論は、伝統的には実辞とされる陽性量子が1階層で進行することが基本である。したがってある種の量子群すなわち文において、陰性量子が冒頭に立つときには、その前に陽性量子または量子群が省略されたと考えることができる。
陰性量子が陽性量子の進行方向に変化を与えて、新しい階層に移行させることは、陰性量子が受けている被圧迫エネルギーによるとしたが、より正確には、以下のように説明できる。
一般に断定の虚辞とされる「也」は、その実辞としての意味は現代においては不分明であり、陽性量子としてはほぼ消滅したと考えることができる。その代わりに陰性量子としての虚辞機能が台頭して現在に至るが、その機能を細分すれば、断定、主題提示、呼びかけ、詠嘆、疑問、反語等の極めて多様である。
たとえば、「回也不愚」(『論語』為政篇)においては、「回」という人物が、(階層が変わり)孔子の心中において、(また階層が変わり)否定される存在であり、(さらに階層が変わり)「おろかものの類」が提示される。」
「階層が変わる」ということは、「回」という人物が、「也」と出現によって実在の人物から、孔子の心中における考察対象へと変換されたことを意味し、さらにその考察対象が「不」によって抹消されることを意味し、さらに新しく「愚」という概念が登場することを意味する。
すなわち陰性量子は、陽性量子が有する言語世界への直接的な意味を行うのではなく、実辞としてはもはや空白となった自らの領域へ、陽性量子を導くjことによって、一種の真空無重力の状態を現前させ、その方位を転換することであると仮定する。その転換に必要とされるエネルギーは、領域が受けている被圧迫のエネルギーから生ずるものと仮定する。 

7 陰性量子の意味
 陰性量子が有する意味は、上述した「也」の意味分類でも明瞭なように、陽性量子の意味よりはるかに精妙な場合が多い。これらの意味はどのようにして出現したと考えることができるか。
 陰性量子が実辞としての機能を消滅させ、一種の真空領域を有していると仮定したが、ここにひとたび断定という意味が成立すると、この「也」に前から接合する陽性量子の意味によって、その真空領域は一定の反応を示すようになる。たとえば「回」のような人名が前に接合すると、「也」は断定的な意味機能の一変容である主題提示として機能することとなる。

8 陰性量子のエネルギー
 陽性量子のエネルギーは、新しい意味を言語世界に付加するために与えられたものであることは、すでに「2 量子の出現と消滅」において記述したが、ここでは陰性量子が有するエネルギーについて詳述する。


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