部屋に帰ってもとめてきた辞典を通読しているうちに、「育」の甲骨文字に惹きつけられた。この字は上が出産する女性の形象、下が生まれてくる子の形象ということがはっきりわかる。古形では従って子は逆さまに書かれている。資料によっては出産時の羊水を明示しているものもある。つまりこの字の原義は出産そのものだが、出産後はすぐに養育が始まる。従って「そだてる」という意味が出てくると記されていた。この文字に内在する時間という観念からすれば、出産の準備から出産そのもの、そして養育というふうにとることができる。気になったので、この字についてあらためて、王国維が小学においてもっとも服膺した段玉裁の説文解字注で見てみると、逆さまの子は善くないので、それを善くさせるべき意味を持つものだ、と書かれていた。その説明は、逆さまの子という部分に原資料の面影を残してはいるが全体としては抽象的で、原資料が持つ図形の直接的な意味とそこに内在するとおもわれる時間から、かなり離れてしまったものになっていた。
Source: http://srfltheory.weebly.com/tale.html
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