From Print 2012, Chapter 5
車と人がしだいに増えてきた。
中心街へ入ってくると、点灯した車のライトがまぶしい。建物が高くなってきた。ふたりの頭上には、赤と紺の地に金で縁取りされた小旗が歩道に沿って飾りつけられ、それがずっと先まで続いている。
―祝祭の前夜のようだね。
何に対しての前夜だったのか、自分がその中にいるとおもった日々が、かつてたしかにあった。
―前夜?
―そう、前の日の夜。
―クリスマスのような。
―そんなすてきなものじゃなかった。でもきっと、なにかを待っていたんだろうね、自分なりに。
―なにを待っていたの?
Iの髪に車の光が移って行く。
―もうよくおもいだせないけど、たぶん、やすらかな自分なのかな、へんな言い方だね。
―そんなことないけど、それはおとずれたの?
―来なかった、たぶん。
祝祭はついに来なかったのかと、Iに言われておもった。
こまかな雨が行く人の肩をぬらしている。
―それでもきっとなんとかなったんだね。こ
うしているから。
いつからか祝祭を待つおもいは消えた。あるいは祝祭も前夜も、知らぬ間に過ぎて行ったのかもしれない。
Source: Tale / Print by LI Koh / 27 January 2012
No comments:
Post a Comment