Friday, 27 June 2014

From Tale, Print by LI Koh 2012 / Print seems to be moving

―版画が動いて見えたんだっけ?

―そう、あのときはかなりおどろいた。前にも言ったように、その版画はむかし、一緒に働いていたKが送ってきてくれたもので、ずっと封筒の中に入れたままにしてあった。花火の版画で、たぶん切り絵のようにして版を作り、そこに油っぽい絵の具をつけて、幾回か刷り重ねて作ったのかな、その幾重にも重ねられた紺一色のグラデーションで花火が濃淡に描かれていて、それを今のところに越してきてから、台所の横の壁の上のほうに、額に入れてピンで留めておいた。日曜日の夕方近くだった。ソファに腰掛けてなにげなくその版画の方を見上げると、すわっているから見上げる感じになるんだけど、そうすると電気をまだつけてなかったからすこしうす暗いその台所の壁面の版画の中で、花火がつぎつぎに打ち上げられていく。花火がゆっくりと暗い空に上っていってしずかに大きく開く。続いてその下方で淡く白い花火が開き、そのさらに下方で菊のような花火が開く。さらに後方を別の花火が上っていき、上空で細かく飛び散るように開花する。打ち上げは見ている間中いつまでも続き、絶えることはない。幻想的というのか、呆然とした、そのときは。


Source: http://srfltheory.weebly.com/tale.html 

Evening rain at Nihonbashi, Tokyo

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