物からの抵抗
里行
物からの抵抗などというと、理科のことを思い浮かべる方がいらっしゃるかもしれませんが、ここで申し上げるのは、深いところではそのこととつながっているかもしれませんが、とりあえず理科からは離れたことがらです。
抵抗とは、私たちがさまざまな物に出会うことによって、自分が今いる位置や方向をはっきりと感じ取り、そこから新しい行動に入ってゆくきっかけを作り出す元といった意味なのです。
私は最近、この抵抗ということがたいへん重要なものではないだろうかと考えるようになりました。
抵抗とは、ひとことでいえば、自らの外から訪れるものなのです。
抵抗ということばは、自分の内から外に向かって抵抗するというように使われることもあるかもしれませんが、ここでは、抵抗は外から私たちに与えられるものなのです。
ここにひとつの彫刻があります。私はその前に立ち止まり、その彫刻が持つ質感や量感、また流動感や絶対的な静止感を私のからだ全体で受けとめて、その会場を離れます。
その彫刻は、それまでの私の世界にまったく存在しない種類のものでしたから、私のものへの接し方は、その彫刻を見たことによって、以前とは違ったものになっています。つまりひとつのものが私の日常の流れに抵抗し、私はそのことを受け入れることによって、それまでにない私に変わってゆくのです。言い換えれば、抵抗とは、私がある瞬間を生きた証しであるともいえます。
私はものからの抵抗によって、新しく考え、新しく行動することになります。抵抗は私の世界を変えたのです。それは私の予想を超えたことでした。ですから抵抗は、私の未来に直結した大切なものともいえるでしょう。
表象とは、この抵抗の場に身を置いたものの全的な表現と思われます。したがって表象史とは、抵抗を受けて動揺するたましいの記録ともいえるでしょう。
抵抗によってはじめて、この広大な世界が、私のたましいへと届くのです。
東洋表象史秋季セミナーにて
Midzuho November 29, 1997
Sekinan Research Field of Language
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