Saturday 30 September 2017

To Winter 13 Poem of Yuan Dynasty

13 Poem of Yuan Dynasty
元曲
ヒヨドリは元気になった。その野性は元気になった分よけいけたたましくなった。結局みかんしか食べなかった。柿もりんごもせっ
かく見つけてきた搔き餌も食べないで、みかんだけで元気になった。若いだけに回復しだすと早い。鳥かごに飛びつき、ぴょんぴょん
ぴょんぴょん動き回る。
 今日はもうどうしても放しにいかないといけない。郊外線に乗ってO駅の向こうで放そう。あの辺の林なら、万一また弱っても、な
んとか生き延びられるだろう。都市にはからだをいやす隠れ家としての自然がない。当然といえば当然だが、あらためて自分が人工の
中だけで生きているのを感じる。ここでは弱った鳥は生きていけない。たぶん人間もそうなのかもしれない。鳥を林に放そう。
郊外線のアルミの銀白色と青緑のラインが真新しい車両に乗ると、ひさしぶりだなとなつかしくなる。Kと一緒に勤めていたころは 、
しばしば乗った。そのころは全体が鈍い色の緑の車両ばかりだった。
O駅を過ぎるころ、窓外に注意していた。R荘は以前のままだった。さらに古びて、すこしかたむくようにして、さわやかな秋空に
暗いモルタルと排気煙突がすべるようにながれていった。Kはどうしているだろう。版画のことがあってから一度、最後にもらったは
がきの住所宛に手紙を書いてみた。もしかして届けばとおもったが、しばらくすると宛先不明で返送されてきた。
郊外線の車窓に遠く丘陵が見えてきた。Aのふるさとの丘陵とは違う。しかし共通しているなにか、そこに来れば安心できるなにか
がある。人は本来そうした景色に守られて生きるのだ。都市の中ではあまりにも裸のままだ。疲れたら木々の中で休めばいい。冬の風
は高く木立の上を行くだけだ。林の中は静かで暖かい。ヒヨドリよ、おまえもそこで生きるがいい。そこがおまえのふるさとになる。
 ああ、なぜ気づかなかったのだろう。Kのふるさとは川のあるU市だった。そこで旧盆のころに大きな花火が上がる。精霊を送り、
生者の安穏を祈る。一度そのことを話してくれた。Kはそれを描いたのだろうか。
馬致遠は杭州で遠くにぎわう大都をおもう。元曲「秋思」はうたう。
  枯藤の老樹、鴉を昏くし
  小橋に水流る、人家のほとり
 古道の西風、痩馬ありて
夕べの陽は西に下ちる
断腸す、人の天涯に在ることを
窓辺に遠く低くなだらかな丘陵が見えている。
ホームに人はいなかった。ヒヨドリと一緒に改札口を出ると、霜枯れた畑がひろがり、一本の道が彼方の丘陵へと続いていた。
秋の早い残光の中に綿虫が白く舞っていた。

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