Saturday 30 September 2017

To Winter 5 Fireworks

5 Fireworks
花火
版画を描いて送ってくれたKのことをおもい返した。  最後に連絡があったのは個展の案内で、はがきの裏側に描かれていたのは、中国かベトナムらしい小舟に笠をつけて一人がすわり、 ランタンのような灯りが黄色く灯っているものだった。かつてKの部屋にも小舟の画があったから、それは彼の主題のひとつであった のかもしれない。会場はたしかY市だった。もうお互いに離れてからだいぶ経っていたし、Y市ではでかけるのも遠かったので、返事 も出さないで過ぎてしまった。それ以後の連絡はなかった。  あらためて彼の版画を見る。近くで見た画面は、紺の濃淡のみの簡略化された花火の打ち上げにしか見えない。下から三分の一ほど のところに水平な線が三本通っている。川面のようにも見える。そして幾本かの花火の上ってゆく軌跡と頂点での開花がある。中央や や左側にいちばん大きな花火がある。その下方に二つ、右上方に一つ。あと左上方と右下方に縦型の花火が一つずつ。花火はみなで六 つだった。  これが夕方のというか、そのころの光の具合のときに、花火がつぎつぎに打ち上げられてゆく。Kはそこまで計算して版画にしたの か。それとも花火の本質を描けばその結果としてそうなるのか。Aにはこまかなことはなにもわからなかった。ただすべてはそのよう に進んだ。 画の刷り番号は2番。そこにAへのおもいのすべてが記されていた。 版画の右下に書かれた細いペンのサインを見ながら、そのころKが言ってくれたことをおもいだした。どんなときでも自分の名まえ を書くときはこの上なくていねいに書かなくてはいけない、と。

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