Saturday 30 September 2017

To Winter 7 Warehouse

7 Warehouse
倉庫
翌朝起きると鳥はかなり元気になっていた。Aが起きる前から、もうときどき羽をばたつかせていた。みかんを見るとつついた痕が ある。これならたぶん大丈夫だ。小麦を練ったのはやはり食べてない。今日どこかで搔き餌を買ってくるか。その必要もなく放してし まうか。朝食のパンと牛乳を手にしたまま、そんなことを考えた。パンをちぎって入れてみたが、これはやはりついばむ様子がない。 果物がいちばん好きなのだ。  スズメなど平和そうに見える鳥も、冬を越して翌年まで生き延びるのは一割ほどだという記事をどこかで読んだ。巣立ったらもはや ひとりだけで生きなければならない。これは人間よりたいへんか、そうおもいながら家を出た。外へ出るともう肌寒い。この朝の風景 に出会うと、世界はいいものだと、Aは単純だが真実そうおもう。みなどこかへ足早に動いてゆく。それぞれの当面のかけがえのない 目的のために。Aにも倉庫の仕事がある。 この仕事は作業が明確で一定しているが、荷解きの内容は季節によってつぎつぎと変わる。新しい製品が出ると、従来品との案分が 変わる。在庫と滞貨の管理がある。欠品の確認がある。Aたちの作業はその日のうちに一旦完了するが、仕入れ担当は適時に価格を見 込んで補充する。倉庫の外には運送がある。着いたばかりのトラックの運転手が、はたから見ていてもぎりぎりの往復運転でまた会社 へと戻って行く。仮眠を含めた二日がかりの運送はさらにきびしい。腰を痛めても血圧が高くても、定時には目的地に荷物を届けなけ ればならない。それは絶対的なものだ。 定時になると荷物を依頼主に届けるトラックが続々と入ってくる。 伝票とベルトコンベアとダンボールの箱が、Aたちの仕事の対象だ。そのながれを迅速に処理していく。できるだけ余分な疲労を避 けて、明日以降の荷物の移動も考慮に入れながら、荷物の群れを配置し荷解きしていく。こうして日々膨大な品物が流通する。それが 実感できるのが彼は好きだった。 日々の中で、この仕事に生きる人たちがときおりのぞかせるはっとするほどの集中と洗練が、どこかでなお傍観者としての意識が消 えない彼に、おまえはいったいどこにいるのかと問うことがある。穀物を専門に扱うPが、使い込んだ麻の前掛けをひらりとさせなが ら前を通って行くと、まるで横綱のような風格を感じてしまう。Aはいまも、そのほとんど脱色した紺の前掛けを自分もつけてみたい とおもうことがある。まったく似つかわしくなく、かなわない夢であることを知ってはいても、迷いなく真摯に生きる姿にあこがれに 似たおもいをいだくのだ。 ―Aさん、そっちの伝票送ってくれないか。 飄々としたSの声が、リフトカーの向こうから響いてくる。昼までにさばく荷物が今日は多い。季節がまた移っていくなとAはおも う。

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