Sunday, 23 June 2019

4 Letter / from Resting Elbows Nearly Prayer

4 手紙
一年の夏休みに、田所は村木に手紙を書いた。結局七月の陸上記録会は散々だった。踏みきりは合わないし、記録ももちろんよくない。おまけに、最後には足がつり気味になった。対照的に、村木は順調だった。短い髪が夏の光に輝いていた。金井は、競技会前の学校での練習で、足を少しくじき、大事をとって記録会には欠場した。秋の競技会に向けて順次調整していけばよい。
学校での練習は七月いっぱいで終わり、八月は自主練習となっている。各自が思い思いに練習しあるいは休んだ。長野の白馬にある学校の山荘に行き、地元の小学校を借りて練習することができるが、それも自由参加だった。合宿とは少し違っていた。自由な校風は、そんなところにも出ていた。田所は夏休み前に参加の通知を出してはいたが、もしかしたら休もうかとも思っていた。
白馬は初めて行くところだ。登山の基地としても魅力があったが、夏休みが中断するのが、なんとなくいやだった。一学期はあっと行う間に過ぎた。二期制だったから、通知表もまだ出ない。成績のことはほとんど気にならなかった。評価も順位も大体予想できた。
立山市はこの地域の中核都市で、三つの線が集まるターミナル駅であり、乗降客は多い。田所はそこから緑陰線で見島まで乗り、そこで七高線に乗り換えて、二つ目の蔵之崎で降りた。そこから自転車で畑と林を抜けて自宅に着く。歩いて蔵之崎駅まで行くこともある。春には林でウグイスが鳴き、畑では高くヒバリがさえずった。ここで生まれ育った田所はこの町が好きだった。そしてときどき、というより何か機会があるたびに笹木丘陵に行った。東西11kmにわたって続くこの丘陵は四季それぞれの美しさを示した。田所の丘陵との最初の出会いは、父に連れられて丘陵の北にある遊園地まで花火を見に行ったことだった。姉からその話を幾度か聞かされていたが、田所自らに記憶はなかった。
「林を歩いていて急に明るい畑に出ると、そこから一面にひろがる南の果てに山塊が低く続き、雲が高くわき立っています。畑では雉をときどき見かけます。
これから秋に向かって台風が来て、その翌日は輝くような美しい風景に出会えます。白馬での練習にはやはり行きますか。」
そんな意味不明なことを書いて、投函した。返事を待ったが来なかった。
結局、白馬の練習には参加した。高原の小学校はあきらかにもう秋が来ていて、それを知るだけでも来た価値があったと思った。
「はがきありがとう」と村木が礼を言った。
「返事を待っていたのに」というと、すぐに練習で会うからと思って、出さなかった、ごめんねと言われてしまった。やはり間接的な表現はだめだと田所は思った。「夏ってなんか感傷的にならない?」
「別にそうでもない」、素足にサンダルをはき、練習用のシューズを手にして午後の練習が終わったとき、村木はほんとうにその感じで言った。田所君の気持ちはわかるけど、今は時間の経過にまかせてみない、することがたくさんあるもの、もし返事が来たら、そんなふうに書いてあると田所は思った。

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